大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(モ)11504号 判決 1970年6月15日

債権者 中庄株式会社

右代表者代表取締役 中村庄八

右訴訟代理人弁護士 山下豊二

同 根岸隆

債務者 小沢政子

右訴訟代理人弁護士 野村佐太男

同 大越譲

主文

1  東京地方裁判所昭和四四年(ヨ)第一六八〇号不動産仮処分申請事件について、同裁判所が昭和四四年三月一四日なした仮処分決定は、これを取り消す。

2  債権者の本件仮処分申請を却下する。

3  訴訟費用は債権者の負担とする。

4  この判決の第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一申立

債権者 主文第一項掲記の仮処分認可の判決

債務者 主文第一ないし第三項同旨の判決

≪以上事実省略≫

理由

一、債権者は、債務者との間に締結したと主張する本件物件を目的とする根抵当権設定登記請求権を保全するため、本件物件について、いわゆる処分禁止仮処分を求めるものであるところ、まずかかる仮処分が許されるかどうかについて考える。

ところで執行保全のための仮処分命令の内容は、被保全権利の保全の目的に必要かつ適切な限度にとどめなければならない。

抵当権は本来債権担保のための目的物件の交換価値を把握し、それから優先弁済を受ける権利であり、設定者たる所有者の目的物件の処分権能を一時的にしろ全て奪うことはできないものである。

しかるに、現行法制および登記実務の取扱いによれば、処分禁止仮処分の登記に際し、被保全権利の登記はなされないし、ことに仮処分債権者たる抵当権者が抵当権設定登記請求の本案訴訟で勝訴したときは、仮処分違反となる第三者の所有権その他の権利取得が全面的に否定されることとなる。すなわち、右抵当権者が抵当権設定登記を申請すると同時に、仮処分後の目的物件に対する第三者の所有権移転登記や抵当権設定登記の抹消を申請することができるのである。(昭和四一年一一月二九日付民事三発第一〇七一号民事局第三課長電報回答、法曹時報一九巻二号一七二頁参照。)右のような登記実務の取扱いを前提とする限り、本件のごとき抵当権設定登記請求権を保全するため処分禁止仮処分を命ずることは本案の請求権に比して過ぎた仮処分として許容しがたいものといわなければならない。かかる抵当権設定登記請求権保全のためには、実務上若干の制約はあるにしろ仮登記仮処分によるのが相当であろう。

そうとすると、たとえ、債権者主張の根抵当権設定契約が債務者との間で結ばれたとしても、債権者は、本件物件について、処分禁止仮処分を求めることは許されないことになるので、爾余の点について判断するまでもなく、債権者の本件仮処分申請は理由がなく、本件仮処分決定は取消を免れない。

よって、本件仮処分決定を取り消し、債権者の本件申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川正昭)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例